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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)445号 判決 1958年7月11日

大和高田市天神橋一四六九番地

控訴人

小西純一

右訴訟代理人弁護士

水田猛男

同市新町一丁目

被控訴人

葛城税務署長

牧野豊

右指定代理人

今井文雄

木村傑

右当事者間の更正決定取消請求控訴事件につき、当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す控訴人の昭和二十七年度の総所得金額につき被控訴人が昭和二十八年六月十日これを金百三十一万七千七百円とした更正処分中大阪国税局長の昭和二十九年十一月五日の審査決定により認容せられた金一一三万四千円の部分はこれを取消すとの判決を被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

控訴代理人の主張する請求原因事実は次の如くである。

一、控訴人は呉服小売商を営むものであるが、昭和二十七年度の総所得金額を七二万六千五百円として青色の確定申告書を被控訴人に提出した。被控訴人は昭和二十八年六月十日右総所得金額を一三一万七千七百円と更正したので控訴人は同年七月十五日被控訴人に対し価格変動準備金の設定を排除したこと昭和二十七年度期首商品金額についての控訴人の申告額二四一万八千九百円を二百二万七千七百円と修正したことの二点を不服として再調査の請求をしたが、被控訴人は同年八月二十九日右請求を理由なしとして棄却の決定を為した。

これに対し控訴人は同年九月二十四日大阪国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和二十九年十一月五日の審査決定に於て右価格変動準備金一八万三千七百円の設定については控訴人の主張を認めたが、期首商品金額についての控訴人の主張を排除して被控訴人の更正額一三一万七千七〇〇円より価格変動準備金一八万三千七百円を控除した金一一三万四千円を控訴人の所得額としてこの限度に於て原更正処分を維持した。そこで控訴人は法定期間内の昭和三十年二月五日右更正処分中国税局長により維持せられた総所得金額一一三万四千円の部分の取消を求める為処分庁である被控訴人に対し本訴を提起した次第であるが、本訴に於ても被控訴人との間の争点は昭和二十七年度の期首棚卸商品金額が控訴人主張の如く二百四一万八千九百円であるか、被控訴人主張の如く二百二万七千七百円であるか、という一点につきる。

二、控訴人が昭和二十七年度の期首商品金額を二百四一万八千九百円と主張する理由

昭和二十七年度の期首商品金額を二百四一万八千九百円と主張する理由を述べるには、控訴人の昭和二十六年度の所得の青色申告から説明する必要がある。控訴人は、昭和二十六年度の所得の青色申告に際し、法令の命じている貸借対照表の昭和二十六年度期末棚卸品金額を二百二万七千七百円とし損益計算書の昭和二十六年度利益を八二万二千百円として提出したところ、被控訴人は何等の根拠もなく右損益計算書の利益八二万二千百円を三六万四百円の増額を命じて一一八万二千五百円としこれに圧き控訴人をしてなかば強制的に総所得金額を一一八万二千五百円として確定申告書を提出させた。ところで(イ)貸借対照表は収支の結果生ずる財産上の変化を示すもので、損益計算書はその原因であり又貸借対照表は事実であつて損益計算書はその事実の生ずる過程の説明であり、両者の関係は不可分であるから損益計算書を修正する限り貸借対照表をも修正しなければならないのである。

(ロ) 然らば被控訴人の如く昭和二十六年度の損益計算書の利益を三六万四百円増額するときは、貸借対照表のいかなる科目を増額すべきであろうか、控訴人は昭和二十六年度の貸借対照表の期末棚卸商品金額二百二万七千七百円を三六万四百円増額して二四一万八千九百円(三六万四百円を増額すれば二三八万八千円となるが本件係争に関係のない勘定をも加算する)と訂正しなければならないと主張するものである。何となれば貸借対照表の各科目中商品の時価は日々浮動して評価の範囲も広くその相手方勘定として損益をとることができるのみならず、商品は真実に反して増額しても次期の決算で正当な棚卸をすれば容易に真実に復帰し得るに反し其の他の科目を増額すればこれに対しその相手方勘定を必要とし、帳簿に真実性を失い次年度にこれを回復しようとすれば再び不正記入をしなければならず次期の会計を乱してしまうからである。

(ハ) 控訴人主張の如く昭和二十六年度期末棚卸商品金額を二四一万八千九百円とすれば昭和二十七年度の期首商品金額も右と同額となり昭和二十七年度の利益は七二万六千五百円となるが、被控訴人は昭和二十六年度期末棚卸額商品金額二百二万七千七〇〇円を昭和二十七年度の期首の商品金額として同年度の利益額を計上し大阪国税局長がこれを認容したのは前記簿記の原則に反する誤がある。

被控訴人の答弁

一、控訴人主張の一の事実は争わない

二、被控訴人が昭和二十七年度の期首商品金額を二百二万七千七百円と主張する理由

被控訴人が昭和二十七年度の期首商品金額を二百二万七千七百円としたのは控訴人の棚卸の結果を採用したものである。控訴人は昭和二十六年度の所得の申告に当り、昭和二十六年期末棚卸商品金額を二百二万七千七百円と大阪国税局長へ報告していることはその自認するところであるが、右は控訴人自身が現実に在庫商品を調査の結果作成したもので、真実に一致するものであり、右期末棚卸商品金額はとりもなおさず昭和二十七年度の期首商品金額である。

被控訴人が昭和二十六年度の控訴人の利益八二万二千百円を過少申告と認めこれを一一八万二千五百円と修正せしめたことは争わないが、控訴人は被控訴人の指摘によりその利益の過少申告であることを認めて被控訴人の修正に応じたものであつて、控訴人の意に反するものではない。又利益を増加すれば必らず期末棚卸商品金額を増加せしめねばならないという如き簿記上の原則は存しないに拘らず、控訴人は利益の増加に伴い期末棚卸商品金額を増加せしめる要ありとしてその金額を二四一万八千九百円と主張するが、真実に副わない架空の数額に過ぎない。

証拠として当事者双方は原判決事実摘示通りの証拠の提出援用認否を為した外控訴人は甲第一五号証の一、二第一六第一七号証を提出し当審における証人金光清丸、小西宗四郎の各証言控訴本人訊問の結果を援用し乙第二号証を否認して乙第三号証の成立を認め被控訴人は乙第二、三号証を提出し甲第一五号証の一、二第一六号証の成立を認め同第一七号証を不知と述べた。

理由

控訴人主張の一の事実は、当事者間に争なく、従つて控訴人の昭和二十七年度の所得額決定についての唯一の争点は昭和二十七年度の期首商品金額が被控訴人主張の金二〇二万七千七百円であるが、控訴人主張の二四一万八千九百円であるかに係つているのでこの点を審究する。控訴人が昭和二十六年度の所得の青色申告を為すに当り大阪国税局長に貸借対照表に於ける昭和二十六年度期末棚卸商品金額を二〇二万七千百円損益計算書の利益を八二万二千百円として報告したところ大阪国税局長は右利益を三六万四百円増額して一一八万二千五百円と修正し控訴人も右修正に応じてその所得額を一一八万二千五百円として確定申告したことは当事者間に争なく、控訴人は右修正は何等の根拠なくして修正を強制したものであると主張するが、成立に争のない乙第一号証の一、二に原審証人中彌好義の証言を綜合すれば、控訴人は大蔵事務官中彌好義にその利益の申告の過少なることを指摘せられてこれを認め進んでその修正に応じ利益を一一八万二千五百円所得金額右同額として任意に昭和二十六年度の確定申告したものであることが認められるのでこの点に関する控訴人の主張は理由がない。

控訴人は右の如く昭和二十六年度の利益を増額した以上昭和二十六年度期末棚卸商品金額もこれに伴つて増額しなければならないと主張する。なるほど貸借対照表と損益計算書は密接不可分の関係にあつてその記載にそごがあつてはならないことは簿記の原則ではあるが、利益の増額が必然的に期末棚卸商品金額の増額を伴うものであるという如き会計学上の原理は存しない、控訴人は利益の増額が当然に期末棚卸商品金額の増額を伴うべきであるという仮定理論の下に棚卸商品金額を二四一万八千九百円と主張するが、その数額自体何等理実の商品在庫数に照応するものでないことはその主張自体より明らかであり、これに反し被控訴人の主張する二百二万七千七百円は前段認定の如く控訴人自らの任意申告した数額でありしかもこの数額が控訴人の現実の在庫品調査に基く相当のものであることは当審に於ける証人小西宗四郎の証言により明らかであるので、控訴人の本主張も採用し難い。右期末棚卸商品金額が即ち昭和二十七年度の期首商品金額となるのであるから昭和二十七年度の期首商品金額を二百二万七千七百円とする被控訴人の主張は正しく、これを基礎として算出した被控訴人の昭和二十七年度の所得額一一三万四千円の認定は相当であつて、控訴人の請求は理由がなくこれを棄却した原判決は相当であるので民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条に則り主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 田中正雄 裁判官 観田七郎 裁判官 河野春吉)

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